老年期痴呆(ろうねんきちほう)
老年期痴呆(ろうねんきちほう)
老年期痴呆とは、知能の働きが低下した状態を指し、俗にぼけといわれています。
記憶力や見当識(時間、季節、場所など、自分の置かれている状況の認識)などの記憶や知的機能が極度に低下して、自立した社会生活ができなくなる病気です。
痴呆の多くは、脳の中のなんらかの障害によって起こりますが、発症の違いによって脳血管性の痴呆とアルツハイマー型老年痴呆に大別され、さらにこの両者が混在した混合型もあります。
日本では脳血管性痴呆が半数以上を占め、アルツハイマー型老年痴呆は約30%、混合型が約10%となっています。
ただし最近では、日本でもアルツハイマー型老年痴呆の割合が増える傾向にあります。
老年期痴呆の症状
老年期痴呆の症状は、近い記憶(記銘力)や憶えたことを記憶する能力(記憶力)の低下、時間や場所、自分と他人との関係などがわからなくなる(見当識障害)、ものを数えられなくなる(計算力障害)などの症状と、うつ状態や不安、焦燥、幻覚、妄想、徘徊、その他の異常行動などの周辺症状があります。
人によって症状のあらわれ方はさまざまですが、多くの場合、前述のような症状がいくつか重なってあらわれます。
初期に目立つのは記憶障害です。
物忘れがひどく、何度も同じことを聞いたり言ったりしますが、本人は忘れたという自覚がなくて平然としています。
被害妄想的な言動もみられ、食事を食べさせてくれない、財布を盗まれたなどと大騒ぎします。
時間や場所、人の名前を間違えたり、服装がだらしなくなったりしたときには、ぼけはかなり進んでいると考えられます。
さらに症状が進行すると、着替えができなくなる、あてもなく歩きまわり帰宅できなくなる、大小便の失禁、夜間せん妄(夜間に大声を上げて歩きまわったり、幻覚や幻聴におびえたりする)などの異常行動がみられるようになります。
末期には、食事もとらずにぼんやり過ごすことが多くなり、歩行困難から寝たきりになるケースもあります。
痴呆あらわれる経過は、脳血管性痴呆とアルツハイマー型老年痴呆のそれぞれ典型的な症例では異なる部分もあります。
アルツハイマー型老年痴呆はいつの間にか発症しますが、進行はゆるやかです。
これに対し脳血管性痴呆は脳卒中のあとに起こることがほとんどで、段階的に進行します。
また、自分が病気であるという自覚が、脳血管性痴呆ではかなり長期間保たれるのに対し、アルツハイマー型老年痴呆では早期からなくなります。
人格の変化(人柄が変わる)が、アルツハイマー型老年痴呆に著しく、質問に対して的はずれな返答をして相手を当惑させることがありますが、脳血管性痴呆の場合は、質問に対してまじめに答えようとする態度がみられます。
一般にアルツハイマー型老年痴呆のほうが症状が重く、治療効果はほとんど望めません。
これに対し、脳血管性痴呆は一部の正常な機能が残されており、治療効果が期待できる場合があります。
このほか、脳血管性痴呆は男性に多く、アルツハイマー型老年痴呆は女性に多いのが特徴です。
発症年齢では、脳血管性痴呆は50~60歳くらいに多く、アルツハイマー型老年痴呆は70歳以上の人によくみられます。
ただし、少数ながら50歳代に発症する重症のアルツハイマー型老年痴呆があります。
知能障害が強くあらわれるもので、かつては初老期痴呆と呼ばれていました。
欧米ではこれをアルツハイマー型老年痴呆と同じものと考え、両者を合わせてアルツハイマー病と呼んでいます。
老年期痴呆の原因
老年期痴呆の原因は、脳血管性痴呆の場合、脳血管の障害が原因で起こります。
脳梗塞や脳出血などの脳卒中のあとに徐々にあらわれるぼけ症状がその典型で、多くは脳梗塞のあとにみられます。
多発性脳梗塞の場合は、梗塞の数が多く範囲が広いほど、痴呆が起こりやすくなっています。
アルツハイマー型老年痴呆の場合は、脳卒中などの脳血管の障害による痴呆と異なり、大脳の萎縮、脳の神経伝達物質の減少、アミロイドという物質の蓄積などがみられることから、世界的にさまざまな原因究明の努力がなされていますが、まだ本格的な解明に至っていないのが現状です。
老年期痴呆の検査
老年期痴呆の検査は、面接によって、あるていど痴呆の度合を判断できますが、記憶力障害だけがみられるごく初期の段階では、単なる物忘れとまぎらわしい場合があります。
また、うつ状態があることも多いので、うつ病と間違うケースもあります。
記憶力障害がある程度以上に進行したものでは、知能テストを行なうことで容易に診断がつきます。日本では、痴呆の有無や程度を検査する評価尺度として、長谷川式簡易知能評価スケールがよく用いられます。
また、診断の補助としてX線CT、MRI、脳波などの検査が行なわれます。
脳血管性痴呆では、一般にMRI画像上に脳梗塞があることを示す部分がみられます。
一方、アルツハイマー型老年痴呆では、CTやMRIの検査で脳の萎縮が多くみられますが、脳の萎縮が認められても痴呆の症状を示さない人もあります。
また、痴呆とまぎらわしい病気(うつ病、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症など)との区別をするための検査も行なわれます。
老年期痴呆の治療
老年期痴呆の治療は、薬による対症療法が中心になります。
軽い脳血管性痴呆の場合は、自発性の低下やうつ状態、不安、焦燥などの周辺症状に対して脳循環改善薬、脳代謝賦活薬などが用いられ、症状の進行をおさえます。強い精神的興奮や幻覚、妄想に対しては抗精神薬を使用したり、夜間せん妄の激しい患者には入眠剤を用いたりします。
アルツハイマー型老年痴呆の場合には、主に向精神薬を用いて周辺症状の改善をはかりますが、病気の進行をくい止めることは難しいとされています。
痴呆が著しい場合には入院治療が必要ですが、軽度の場合は家族による看護が望まれます。
からだの清潔を心がけ、けがやかぜ、合併症などに注意しながら生活の介助をすることが大切です。
この病気は、知的機能の障害が大きい反面、感情面では敏感なことも多いものです。
周囲の人の対応が症状に影響するので、家族に迷惑のかかる言動や、失敗があっても叱ったりするのは禁物です。
思いやりのある寛容な態度で接するようにしましょう。
家族での看護が難しくなったときは、保健所、福祉事務所などに相談して専門家のアドバイスを受け、家族の負担を少しでも軽くするような生活環境の改善をはかることも重要です。
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